計画された偶発性理論(キャリア理論)
クランボルツ教授の開き直り
キャリアコンサルタント試験の勉強をされた方であればご存知でしょう。
米国スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授が20世紀末に提唱したキャリア理論です。
この理論は、個人のキャリアほとんどは予想しない偶発的なことによって決定されているというものです。
だから、その予期せぬ偶然の出来事を学習の機会と捉えベストを尽くして対応する経験を積み重ねることが大切だと。
これによってより良いキャリアが形成されるはずだという理論です。
私がはじめてこの理論に触れたのは、キャリアコンサルタントの養成講座で学んだときです。
この時に感じたのは、
「開き直ったな」
という感想でした。
(クランボルツ教授、すいません。)
結局、先々を考えてキャリアプランを作ったとしても、世の中の動きが速すぎて役に立たないじゃないか。
そんな感じだと思います。
ある意味では開き直りにあっぱれです。
イノベーションによって産業構造が変わってしまうことは、世界が既に経験していることです。
その上変革のスピードが速くなっています。
だから、キャリアプランなんて立てようがないと提唱したこと自体が功績なのかもしれません。
クランボルツ教授の理論は、キャリア意思決定はそれ以前の学習体験に基づいて行われるという社会的学習理論を基礎にしています。
「学習する」ということに関しては一貫しています。
ここで「学習する」とは、新たな経験をするという意味です。
人が何かの課題に直面して混乱するときは、それが今までの経験はもちろんスキルや興味を超えていて解決できそうにない場合が多いでしょう。
このときに、新たな経験をすることによって、変化しつづける社会への対応力を身につけ、その結果より良いキャリアが形成されるという点がこの理論の骨格です。
それから、当初の理論である社会的学習理論では「信念」についてフォーカスしています。
しかも、「自己についての信念」と「世界についての信念」の2種類があるとしています。
近年、日本の若い世代は自己肯定感が著しく低いと言われています。
これは「自己についての信念」がどのような環境でどのように形成されてきたのかということと大いに関係します。
現代は情報にあふれ、あらゆる情報にアクセスすることができます。
その環境はすばらしいのですが、ここで問題となるのは自分の位置を確かめるために比較をしてしまうことです。
結果として、大抵は自己肯定感が下がってしまいます。
若い世代に「自己についての信念」が低いという事象は日本全体で考えると見過ごしてはならないように思います。
だからと言って、やみくもに自己肯定感を高めることには賛成できません。
いろいろな個性や人格を持った人たちがいますので合う合わないが当然あります。
ただ、自己肯定感が低いと社内・社外問わず、コミュニケーションに問題が発生する可能性が指摘されています。
クランボルツ教授は、人は信念の内容によっては問題を抱えやすくなると指摘しています。
たとえば、「上司は必ず部下に対して受容的に接しなければならない。」という信念を持っている人は、上司から厳しくされた場合は許すことができず、上司との関係を悪化させてしまうことが考えられます。
これは円滑なコミュニケーションを図るうえでマイナスに作用します。
部下との関係に悩んでいる上司はたくさんいます。
多くはコミュニケーションの仕方に問題があることを原因にあげますが、このケースにおいて一番の問題は部下の信念の内容です。
このことを理解せずにコミュニケーション研修等で解決しようとすることは、かえって関係を悪化させてしまうでしょう。
一見遠回りに思えますが、部下の世界観(信念・価値観・プログラム)を理解するというステップが必要です。
先の世の中がどうなるかなんて誰にも分かりません。
だからこそ、身近に起こることの一つ一つを学習の機会として真摯に向き合いベストを尽くすことが大切だとクランボルツ教授は言っています。
もう理論なんて高尚な表現は不要でしょう。
とにかく目の前の課題に全力で取り組め!
その経験が必ず今後の役に立つから!
こんなことは精神論重視のおじさんが言いそうなことですね。
それでもこれは立派なキャリア理論なんです。
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この記事の執筆者 |
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西ヶ谷紀之 【 国家資格キャリアコンサルタント・社会保険労務士・行政書士 】 |
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