ヤンゴンで出会った少女たち
親切ビジネス?
ヤンゴンはミャンマーの大都会であるが、ひったくりに会う心配はほとんどない。
物を取られる危険性は感じられない。
もちろん自分が男性だからかもしれないが、都会特有のなんとなく狙われているようなヤバイ感じはしない。
パリやバルセロナで感じた「気をつけなきゃ」という感じがしないのだ。
ヤンゴンは他の都市とは違う。
そう安心していたころの話だ。
買い物を終えて、電車に乗ってホテルに戻ろうと思いヤンゴン中央駅にやってきた。

ヤンゴン中央駅
ヤンゴン環状線の中で一番大きな駅である。
マンダレーに向かう長距離列車もこの駅から出発することになっている。
駅が大きいせいか、他の駅とは勝手が違う。
目についた窓口に行って切符を求めるが、環状線の切符はここでは売っていないとのこと。

長距離列車の券売所
係員に聞いてみると、どうやら駅の構内に入ってから切符を買うシステムのようだ。
階段をのぼり連絡通路を進んだところに別の係員がいたので、もう一度切符はどこで買えるのか聞いてみた。
しかし要を得ない。
どうやら私の発音が悪いせいで駅員に伝わっていないようだ。
うーん、駅員さんにはちょっと想像していただきたい。
海外旅行者が駅員に質問するとしたら、「切符はどこで買えますか?」「〇〇行きは何番線ですか?」「トイレはどこですか?」、これらが80%以上を占めるのではないだろうか。
業務上、質問される内容は大抵決まっていると思う。
駅員に「タピオカミルクティーを買えるお店はどこですか?」と質問する旅行者はいないはずだ。
私が駅員さんの想像力の欠如と自分の会話力のなさに落胆していたときだった。
背後から2人の少女がさっと近づいてきた。
「どこの駅へ行きたいの?」と聞いてくるので、目的の駅名を伝えると、切符売り場まで案内してくれることになった。
親切な子たちだと思いながらついていくと、途中で200チャット出せと言う。
さっきも切符を買って正規料金は200チャットだと知っていたので安心して200チャットを渡した。
私は券売所に向かう親切な少女たちの後ろ姿を撮りたいと思いカメラを向けた。

私の切符を買うために券売所に向かう少女たち。
彼女たちはちゃんと切符を買ってきてくれた。
同時にやっぱりミャンマーは他の国とは違うんだと感心しながら切符を受け取った。
お礼として飴ちゃんでもあげようかと思いカバンの中をゴソゴソさがしていると、水を買ってくれという。
えっ?
これはもしや…
『地球の歩き方・ミャンマー(ビルマ)』の「ミャンマー旅行のトラブル」について書かれてあった注意書きを思い出した。
親切や善意の行為と思って依頼するとコミッションを取られて不愉快に思う旅行者が多いから注意せよと。
私はこの当事者になってしまったのだろうか。
水はある。さっきコンビニで、ポカリスエット?のようなドリンクを700チャット(約56円)で買い、さらに水を300チャット(約24円)で買ったばかりだ。
水には困ってないと思いながら、いくらなのか聞くと200チャット(約16円)だという。
安いじゃないか。
不当な価格とは全く思わなかった。
これが500チャット(約40円)だと親切・善意のサービス料金が結構上乗せされていると思うところだが。
自分のケチ臭さに閉口しつつ、価格の正当性についてあれこれ考えていた。
気づくと、目の前にペットボトルの水とお金ちょーだいの手が差し出されている。
分かってるよ。
切符を買うお手伝いをしてくれたんだ。
喜んで払うよ。
200チャットのお礼なんて安いもんじゃないか。
そう納得しながら財布をゴソゴソしていると、手持ちの一番小さな紙幣が1000チャット札(約80円)であることに気付いた。
1000チャット札では、お釣りが発生してしまう。
間に合うだろうか…?
列車の方を見ると、駅員がもうすぐ出発するとの合図をしている。
これはどう考えてもお釣りを受け取る時間はなさそうだ。
しかし、この期に及んで200チャットのお水を1,000チャットで買うことを躊躇していた。
だって、お水は買ってあるし、ホテルに行けば十分過ぎるほどの水が用意されている…。
駅員を見ると、運転手にゴーサインを出している。
ちょっと待ってくれ!
駅員に、自分はこの列車に乗るのだとバタついたボディーランゲージで伝えてみたが、列車は今にも出発しそうだった。
もう間に合わない。
私は、1,000チャットを渡し、切符と水を受け取って、そのまま急いで列車に飛び乗った。
少女たちを見るとお釣りが発生していることに困惑しているようだった。
元締めらしきお兄さんのところで何かを話している。
電車はゆっくり動き出した。
彼女たちがだんだん小さくなっていく。
私は列車の中で思った。
彼女たちは200チャットという正当な価格で水を買ってもらいたかっただけなのだ。
『地球の歩き方・ミャンマー(ビルマ)』に書いてあるような親切詐欺なんかではない。
いきなり売るより、何か役に立つことをしてあげてから買ってもらう方が合理的だという判断なのだろう。
カルディの店員が、店頭でコーヒーをプレゼントしていることと何ら変わるところはない。
ここでは立派なビジネスとして成立している。
だからこそちゃんとお釣りを渡そうとしていたのだ。
彼女たちは学校に行かずにペットボトルの水を売る仕事をしている。
家庭などいろいろ事情があるのかもしれない。
彼女たちは与えられた役割、水を売るという役割を負っている。
そしてその役割をしっかり果たしている。
水道水を気楽に飲めないこの国において、水はとても貴重だ。
その水を廉価で提供してくれた彼女たちは、私に命の大切さを教えてくれているように思えてくる。
キャリアコンサルタントであることを承知であえて言おう。
彼女たちに、お仕着せのキャリア教育は必要ない。
先進国では容易に学べないことを、彼女たちは既に学んでいる。
まだまだインフラが未整備なこの国だからこそ必要な仕事や役割がある。
彼女たちは与えられた役割を担い、観光客を含めた人々に命を守る大切なものを提供している。
この出来事が、未知の国ミャンマーへの誘いのように感じられた。
この国の人たちにますます愛着が湧いてきた。
やっぱりミャンマーは他の国と違うのだ。
私は3本のペットボトルを見つめながらそう思った。
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この記事の執筆者 |
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西ヶ谷紀之 【 国家資格キャリアコンサルタント・社会保険労務士・行政書士 】 |
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