ミャンマーの恋愛事情

はじめてミャンマーを訪れる前に、多少知識を仕入れておこうと思いある本を読んだ。

『ミャンマーを知るための60章』(明石書店)だ。

これはシリーズになっていて100以上の国と地域が紹介されている。

知りたい国があるときは、このシリーズの本を図書館で借りてよく読んでいた。

その国に関わりのある専門家が解説しているため非常に参考になる良書だ。

今回はミャンマー版である。

 

 

恥ずかしながらミャンマーについて知っていることなんてほとんどなかった。

無教養をさらすようだがこれは事実。

でも逆に学びがいがある。

何でも学ぼうと思い読みはじめた。

 

フムフムと順調に読み進んでいったのだが、あるところでブレーキがかかった。

この手の本は途中息抜きがてらコラムを差し挟んだりする。

この本にもコラムがあった。

そのコラムは『「男と女」-いろいろな恋愛』というタイトルだった。

実際にミャンマーで生活していた阿雲登美子さんという方が寄せたものだ。

阿雲さんは、毎日ミャンマーの家庭料理を食べ、ミャンマー語を覚え、アパートを借り、地元の広告代理店に勤務していたとのこと。

深くミャンマー社会に溶け込んでいたことが分かる。

その阿雲さんのコラムでは、彼女の友人知人たちによる奔放な恋愛事情が3ページに渡って紹介されている。

半分は、不倫の話である。

 

ミャンマーの恋愛事情についてはそれほど関心がなかった。

そもそも敬虔な仏教国であるミャンマーにおいては、とても慎ましいものであろうと勝手に想像していた。

だから不倫の話には少なからず驚いた。

しかし、不倫の話がたくさん載っているからといって、原則と例外を読み違えてはいけない。

実際にコラムの中でも、交際することは結婚することが前提であると書かれている。

こちらが原則だ。

結婚を前提としない自由恋愛は世間も親も認めていないそうだ。

そもそも親同士で結婚を決めてしまうことすらあるとのこと。

そこには民族の問題が関係していたりする。

 

阿雲さんも、やっぱりミャンマーでは恋愛に自由がないとの印象をお持ちだった。

もし伝統的な価値観に背いて恋愛するとなれば、それには相当「勇気と覚悟がいる」のだと。

恋愛に「勇気と覚悟がいる」なんて想像したこともない。

ミャンマーではいい加減な恋愛はできないのだ。

結婚前であろうと結婚後であろうと、もし男女が付き合うのであれば、それは本気で恋愛をしていることになる。

だからこそ、阿雲さんは彼らが真剣に恋愛をしている姿がとても美しいと表現されている。

それだけミャンマーでは、恋愛に関してとても抑圧的であることが分かる。

日本のような自由はないのだ。

ミャンマー社会に深く溶け込んだ阿雲さんだからこそ書ける貴重なコラムだった。

 

早朝、ヤンゴンを散歩しているとき、そのコラムのことは当然忘れていた。

そんなとき、向こうから若いカップルが歩いてきた。

よく見ると、朝から仲良く手をつないでいる。

いや、少し強引に女の子の手を引っ張っているようにも見える。

ミャンマーのチャラ男だろうか。

朝っぱらからかなり大胆である。

 

私は彼らとのすれ違いざまに、あのコラムを思い出した。

ミャンマーで恋愛するには「勇気と覚悟がいる」ことを。

 

 

彼らとすれ違ったあと、私は思わず後ろを振り返った。

そして、彼らのうしろ姿を見ながら思った。

 

彼らはチャラいカップルなんかではない。

しっかり勇気と覚悟を持って恋愛している。

抑圧された伝統社会の中で逞しく恋をしている最中なのだ。

 

私はほんの一瞬、彼らを誤解した自分を恥じた。

彼らは私なんかとは違う。

鮭が川を遡上する途中、熊に襲われる危険があろうとも…。

鬼気迫る形相で産卵し、そこで命が尽きようとも…。

こうした勇気と覚悟を持って、2人は早朝から手をつないで歩いているのだ。

そう考えると、彼らに対して自然と尊敬の念が湧き上がってくる。

私がすれ違ったのは、抑圧された伝統社会と戦う、愛の戦士だったのだ。

2人のうしろ姿を見ながら、心の中で敬礼した。

 

 

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この記事の執筆者
西ヶ谷紀之 【 国家資格キャリアコンサルタント・社会保険労務士・行政書士 】
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